食育

食育のしごとに興味をもったら、最初に考える重要なこと

食育のしごとと一口にいっても、その意味するところはかなり広範囲におよびます。「食育」そのものが、幅の広い概念だからです。

たとえば、

「家族そろって食事をする習慣をつける」ことも食育ですし、「いただきますをちゃんと言い、箸使いのマナーを覚える」ことも食育でしょう。

「好き嫌いなく、バランス良く何でも食べる」これも食育ですし、「野菜の名前を覚えたり、魚の種類を覚えたりする」これも食育のひとつですね。

「食品のラベルをよく見て、慎重に食品を選ぶ」これも食育になりますし、「自分で料理ができるようになる」これも食育。

「畑で収穫の手伝いをし、農業について学ぶ、生命について学ぶ」ことも食育に該当しますし、「形の悪い野菜だって、同じ野菜だ。捨てるのはもったいない」というのも食育とされています。

「地元の伝統食品を大切にする」これも食育であり、「日本人なら国産のものを食べよう」と主張するのも食になります。

このように、食育という概念は、とても広い領域にわたっています。

さまざまな食育の分野があるなかで、あれもこれも、やみくもに取り組んでもしごとにはなりませんし、専門性も育ちません。

その中から、どこを自分の得意分野にしていくのか。これが決まらないと、何をどのように進めていくかが決まらないのです。

自分の食育活動の範囲・分野を意識することが、とても大切だということです。

 

1.  「食育」には、どのようなものがあるのか

まず、「食育」の範囲・分野について説明します。

次に、自分がフォーカスするテーマを特定することの大切さ、その方法について解説します。

1-1.  「食育」の範囲・分野

「食育」の範囲・分野は、おおよそ以下です。

<身近なところからの食育>

  • 家族とのコミュニケーション
  • 食のマナー習慣
  • 栄養を考える
  • 朝食をしっかりとる
  • 食の安心・安全を意識する

<環境や社会に関わる食育>

  • 食を通じて自然や環境とのかかわりを知る
  • 食文化を学ぶ
  • 食料事情を心配する

以上、全部で8分野あります。

1-2.  身近なところからの食育

家族とのコミュニケーション

昔は3世代同居の家族が一般的でしたが、近年は核家族化が進み、共働きも多くなり、さらには一人暮らしの世帯も増えています。

そうした中、かつては日常的だった「家族団らんの食事」の機会が減っています。代わりに、1人で食事をする「孤食」が問題になってきます。

「孤食」がもたらす、

  • 話相手のいない、会話のない食卓が子どもの心や性格形成に及ぼす影響
  • テレビなどを見ながら食事をすることが、健康にもたらす影響
  • 好きなものだけを、好きなだけ食べてしまいかねない環境が好き嫌いを助長する可能性

などが心配されています。失われつつある「家族団らんの食事」の価値を、人々に訴える形で行われるのが、この分野の特徴です。

食のマナー習慣

前述の「家族とのコミュニケーション」ともつながりますが、「孤食」が増えるにつれ「家庭の食卓で、親から子へ伝承されてきたもの」も失われる傾向にあります。

<失われがちなものの例>
  • 食前に「いただきます」、食後に「ごちそうさま」を言う習慣が失われる傾向にあります。
  • 上手に箸を使えなかったり、箸のマナーを知らないまま育ったりする子どもが増えています。

そのまま大人になれば、家庭を持っても子孫にこのことが伝わらなくなります。

日本人らしさや文化を失わないためにも、日本人として食のマナーをしっかり身につけ、習慣にしよう、というのがこの分野の食育テーマです。

栄養を考える

社会が貧しく食料が乏しかった時代、人々は栄養不足に陥りがちでした。今は、社会が豊かになり、スーパーやコンビニで食品を何でも買える時代です。

にも関わらず、栄養の偏りの問題は解決できていません。なぜなら、知識のない状態で好きなものを好きなだけ食べていると、

  1. どうしても栄養が偏ってしまう
  2. 体に良くないもの(ジャンクフードなど)をついつい多く食べてしまう

からです。

せっかく「何でも買える」時代になったのですから、栄養の知識を活かし、賢く食べることが推奨されています。

この分野の食育は、栄養の知識を、生活者に伝えることがテーマとなります。

朝食をしっかりとる

「孤食」が増えるのとあわせて、朝食を食べない子どもが多くなり、これが心配されています。

(実際にはこの10年間、朝食を推奨するキャンペーンが学校などでさかんに行われたため、朝食を欠食する子どもは減り始めたようですが)

成人の場合、朝食を食べたほうがよいのか、反対に食べないほうがよいのかについては、健康の専門家のあいだでも意見が分かれています。

しかし子どもの場合、朝食を食べないことで学業成績にマイナスの影響が出ることは統計調査でも確認されています。

「朝食を欠かさず食べる生活習慣を身につけよう」

が、この食育分野のスローガンになります。

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たとえば、農林水産省は、

「めざましごはん」
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kakou/mezamasi.html

というウェブサイトを用意し、さかんに朝食を推奨しています。

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食の安心・安全を意識する

かつて「食の安心・安全」といえば、「衛生」が最大の課題でした。

つまり、食中毒を防ぐことです。

腐敗したものを食べてしまうことによる食中毒のほか、手を洗わずに食事をした結果、なんらかの細菌に汚染されるケースも「衛生」の課題になります。

しかしその後、安心・安全というと「衛生」だけでないという認識が広がってきました。

たとえば、

  • 農薬のこと。
  • 食品添加物のこと。
  • 遺伝子組み換えのこと。
  • 食品偽装のこと。

こうしたことの正しい知識や、食品ラベルの読み方などを伝えるのが、この分野です。

1-3. 環境や社会に関わる食育

食を通じて自然や環境とのかかわりを知る

この分野には2種類の食育があります。

1つは、「都市住民と農村との交流」です。

都市化が進み、田や畑(農地)との距離が遠くなったことにより、「自然に触れたい」「農業に触れたい」と願う都市住民が増えてきました。

おそらく、コンクリートに囲まれた生活は人間本来のものではないという感覚を、人々が持っているためと思われます。

都市生活では得られない癒しを求め、農村を訪れ、農業体験などを行います。

もう1つは、「環境に思いを馳せるもの」です。

たとえば、食べものを残せば、食品残さになります。食品業界も、商品を製造・出荷する段階で、かなりの食品残さを出しています。

日本も含め、先進国は大量の食品残さを出しており、これが資源の無駄遣いとして問題視されています。

またたとえば、日本はアメリカやオーストラリアなど遠方の国から食料を輸入しています。

これを運搬するにあたり貨物船や飛行機が使われますが、貨物船や飛行機は燃料を消費し、2酸化炭素を大気に放出します。これが地球環境にとって望ましくないとされています。

日常なにげなく口にしている食品ですが、その背後にはさまざまな環境問題が関わっていることを、この分野での食育を通じて考えることになります。

食文化を学ぶ

日本は小さな島国ではありますが、南北に長い(南北で気候が大きく異なる)ことも影響し、きわめてバラエティに富んだ食文化を持っています。

目を世界にむけると、これも世界各国に独自の食文化ができあがっています。

  • 自分が生まれた地域の食文化を守り、伝えていく。
  • 他地域や世界各国の食文化にも興味を持ち、学ぶ。

こうした活動をするのが、この分野の食育になります。

食料事情を心配する

現在の日本は、国内の農業生産だけでは国民の食料をまかなうことができないと言われています。

実際、日本は食料の約6割を海外から輸入しています(カロリーベース)。言い換えると、食料自給率が4割です。

これには、

  • 日本の人口に比べ、農家の数が少ない
  • その少ない農家が、高齢化している
  • 日本はもともと農業に適した土地が多くない

といった生産側の課題もありますし、

  • 日本人の食に対する嗜好が昔と異なっている(たとえば、米食よりパン食が多くなっている)
  • 昔よりもたくさん食べるようになった

という、食べる側の事情もあります。

こうしたさまざまな原因が合わさった結果、日本の食料自給率は4割となっているのですが、この数字は日本の歴史上もっとも低い水準であり、シンガポールのような都市国家をのぞけば先進国のなかで最低水準でもあります。

この自給率をもっと上げよう、というのが、この分野の主なテーマとなっています。さらに、自給率を上げるためにも農家を支えよう、という活動にもつながっています。

なお、先進国が飽食気味なのに、発展途上国のなかには食料が不足りているところが多い、という格差を、なんとかしようという活動も、この分野に含まれます。

2.  自分の食育の範囲・分野を意識する

いかがでしょうか。

「食育」と一口に言っても、その範囲はとても広く、分野も分かれていることが実感できたでしょうか。

さて、さまざまな分野があるなかで、自分の専門をどこに置くのか、どこを得意だと見せたいのか、というのを

「ポジションを決める」
「ポジショニングする」

などといいます。

食育のしごとをするには、まず、この「ポジショニング」を考えましょう。

2-1.  ポジショニングを考える前に

食育は8つの分野に大きく分かれると書きましたが、どの分野も、他の分野とつながっています。

たとえば、地元の食文化を守る活動は、地元で作られる農産物や地元の海でとれる魚などの消費を増やすことになり、したがって結果的には食料自給率の向上にもつながります。

たとえば、栄養を考える食育は、多くの場合、朝食を食べようという食育とつながっています。

朝食を食べようという食育は、多くの場合、パン食ではなく米飯を推奨しています。米飯の推奨は、食料自給率の向上につながると考えられます。

このように、食育の活動は複数の分野に関わることが少なくありません。じつは、これが食育のしごとをする人の心を迷わせることになっています。

食育は範囲が広いのに、各分野はほかの分野と複雑に関わるため、ポジショニングという発想が出てこないのです。

そのため、食育をしごとにする人は

「あれもやっています、これもやっています」

というアピールをし、その結果

「何をしているのかよく分からない人」

と思われることになります。

食育は「ポジショニングを忘れていまいやすい世界」だということを、忘れないでおきましょう。

2-2.  ポジショニングの例

ポジショニングの話に戻ります。

たとえばスポーツの得意な人は、もともと運動神経が良いわけですから、サッカーも上手、テニスも上手、泳ぎも速い、「なんでも来い」かもしれません。

趣味としてやっている分には、それでよいです。マルチなプレイヤーとして楽しめばよいでしょう。

でもこれを、しごととして取り組もうと思ったら、どれかの競技にフォーカスする必要が出てきます。

「サッカーの人」になるか、
「テニスの人」になるか、
「水泳の人」になるか、

どれかに絞ることが大切です。つまり、ポジションを決めて、そこに努力を集中させるのです。

実際、プロのアスリートで、異なる複数のスポーツでプロ活動をしている人はほとんどいません。サッカー選手はサッカー選手、テニスプレイヤーはテニスプレイヤーですね。

どうでしょう、「ポジショニング」の重要性はこのことからも明らかではないでしょうか。

もう1つ、別の例をあげると、シェフ、料理人もそうです。

たいがいのシェフ、料理人は、料理をひととおり知っており、どんな料理でもそつなくこなすことができるはずです。

しかし、料理をしごとにするとなると、「なんでもできますよ。どんな料理でも出しますよ」という打ち出し方はまず、しませんね。

なんでも作れることは脇に置き、あえて、ポジションを決めています。

「和食の人」になるか、
「中華料理の人」になるか、
「イタリア料理の人」になるか、
あるいは「創作料理の人」になるか、
それとも、居酒屋になるか…。

分野を決めて、そこを自分の拠点とするわけです。

実際、「どんな料理でも出します」という看板の料理店、つまり何でも屋の料理店というのは、まずありませんね。

2-3.  ポジショニングの決め方

食育のしごとの場合、モチベーションを高めるのはお金だけではなく、

  • だれかの役に立つ喜び(やり甲斐、社会貢献)
  • 活動そのものの面白さ

という要素もあるのがふつうです。

別の言いかたをすると、「儲かれば何でもよい」というスタンスの人には、食育のしごとは向いていません。

「お金になりそう」

ということだけで選んでしまうと、あとで自分自身やチームメイトのモチベーションが下がり、自然消滅・尻切れ状態になるケースがよくあります。

とはいえ、しごとである以上、お金のことを無視するわけにはいきませんね。お金、やり甲斐、面白さ、この3拍子がそろうように、ポジションを考えましょう。

2-3.  なかなかポジションを決められないときの対処法

「お金、やり甲斐、面白さ、この3拍子」

と理屈は分かっていても、具体的にポジションを決めるとなると、迷ったり、またはそもそも適切な分野が見当たらなかったりします。

なかなか「これ」というポジションを決められない…。

そんなときは、

「今は目立たないけど、将来、注目度が上がりそうなテーマ」

を見つけ、それをポジションにする、という方法があります。

将来性があるテーマは、

  • 「お金」という点でも将来性があります。
  • 今後需要が出てくるということなので、社会貢献度も上がることが期待できます。
  • まだだれも注目していないので、未開拓の分野です。それだけに、できることが多く、面白さも抜群です。
  • 今のうちに取り組んでおくと、時期がきたときにオンリーワンとして迎えられる可能性があります。
  • その分野の成長とともに、自分自身の成長も感じられます。

そういう分野であれば、「お金、やり甲斐、面白さ、この3拍子」がそろいやすいはずです。

◎「今は目立たないけど、将来、注目度が上がりそうなテーマ」の見つけ方

では、「今は目立たないけど、将来、注目度が上がりそうなテーマ」はどうやって見つけるのでしょうか?

むろん、それが簡単に答えられるようなら、誰も苦労はしません。見つけにくいからこそ、見つけた人には価値がもたらされます。とはいえ、見つける方法が全然ないわけでもありません。

その方法とは、

「海外で起きているにも関わらず、日本ではまだ起きていないこと」

を探すことです。

  • 海外で日常的に売れているのに、日本では知られていないモノ
  • 海外で利用者が多いのに、日本では知られていないサービス

こうしたものを、食育という視点で、探すわけです。

とくに同じ先進国で、そうしたモノやサービスが見つかった場合、遅かれ早かれいずれ日本でもそれが見られるようになります。

先進国どうしは、社会構造や人々の意識が似ているので、類似したトレンドが発生しやすいからです。

(反対に、日本であたりまえのモノやサービスが、海外ではまだ見られない場合、それを海外に持っていくと広がる可能性があります)

まとめ

食育は、主に8つの分野に分かれる、範囲の広い概念です。

8つの分野は、それぞれ他の分野と関わりあっています。

そのため、食育のしごとをする際に、なにかのテーマに絞るという「ポジション決め」をしないまま、活動を始めてしまうことが少なくありません。

しかし、ポジションを決めずに活動をしてしまうと、伸び悩むことになります。

ポジションは必ず決めましょう。

ポジションを決めるには、たとえば海外のトレンドを調べ、それを自分のポジションにする、という方法があります。

 

 

食育総研
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